第207回国会閉会を受けての岸田文雄内閣総理大臣記者会見(全文)
昨日、令和3年度補正予算及び関連の政府提出法案が無事、成立をし、第207回国会が閉会をいたしました。そして同僚議員をはじめ、すべての関係の皆さまの協力に対し、心より感謝を申し上げます。
今国会では、できる限り私の考えを丁寧に説明させていただきました。自治体や現場の皆さんの意見に耳を澄ませながら、国会論戦の中でいただいたご意見も踏まえ、国民感覚に沿うように方針変更すべきと感じたことは、政治として思い切って舵をきりました。
大切なことは国民の思いをしっかり受け止めることです。
例えば、子育て世帯への給付金です。厳しい年末を迎える中、ご家庭においても、この厳しい状況の中におられる方も多いかと思います。支援を迅速にお届けすることが、何よりも大事であると考えています。
年末年始、国、地方の現場の皆さんにはご負担もおかけいたしますが、国民のためと思ってご協力をいただけるよう、心からお願いをしたいと思っています。
コロナ禍という前例のない、先が見通せない状況の中で、国民の皆さんが少しでも安心して仕事に励み、日々の暮らしが送れるよう、政府として全力を尽くしてまいります。
そのために、まず思い切った内容の大型経済対策を、年内に国民の皆さんにお届けいたします。
同時に、ウイルス変異株などの新しい状況に対して、慎重な上にも慎重を期し、先手先手で対策を打ってまいります。
総選挙後の第2次岸田内閣発足以来40日余り、こうした方針のもと、スピード感を何よりも重視して政府・与党の先頭に立ってまいりました。昨日の補正予算成立により、事業規模78・9兆円のコロナ克服と新時代開拓のための経済対策が、いよいよ実行段階に入ります。
未知のリスクである新型コロナに対し、全世界の政府、医療機関、国民が、手探りで戦うことを強いられています。そうした中、私は新型コロナとの戦いにおいて、丁寧な説明、迅速な行動との方針を徹底しています。政府の方針や考え方の全体像を丁寧に説明し、迅速に実行していくことで、関係者の協力を効率的に進め、公共心の高さ、団結の強さという日本社会の強みを最大限生かして新型コロナとの戦いに臨んでいきたいと考えています。皆さんお一人お一人の協力をいただきながら、国民の命と健康を守り抜くため、力を尽くしてまいります。
未知のリスクである新型コロナへの対応は、毎日が試行錯誤の連続です。国民のために、より良いと思えば、経緯にとらわれず、迅速に対応を改めていくことも政治の役割です。
新型コロナの感染が拡大し始めたばかりの昨年の春は、未知のウイルスへの不安の中、多くの国民の皆さんが、マスクが全く手に入らず、お困りでした。政府が布製マスクを全国民に配布するとしたことで、その後、マスクの製造、流通が回復し、今ではマスクの不足に対する心配は、完全に払しょくされるなど、初期の目的は達成されました。
その後、政府は5億枚を超える高性能マスクの備蓄を保有しており、いざという事態に十分、対応できる状況になりました。財政資金効率化の観点から、布製マスクの政府の在庫について、ご希望の方に配布し、有効活用を図ったうえで、年度内をめどに廃棄を行うよう指示をいたしました。
12月6日の所信表明演説において、コロナ対策、経済対策、外交・安全保障、憲法改正など、内閣が直面する諸課題について、考え方を詳しく申し上げました。本日の会見では、私が所信表明を行った後に、政策の方針や実行面で進展があった7項目について、簡潔に説明をいたします。
第1に水際対策です。外国人の新規入国停止などの水際対策を11月29日より、1カ月を目途として講じてきましたが、オミクロン株の感染力、重症化リスクなどに関する科学的な評価がいまだ確立してはおりません。このため、年末年始の状況を見極めつつ、当面の間、水際対策を延長することといたしました。関連情報の収集に全力をあげつつ、ワクチンの3回目接種や飲める治療薬の普及など、国内対応体制の準備を加速化いたします。
第2に、国内における感染封じ込め対策の強化です。すべての国内感染者について、オミクロン株の検査を行うことで、早期探知を徹底いたします。これに加え、オミクロン株の濃厚接触者に対しては、自宅待機要請ではなく、14日間の宿泊施設での待機を要請するなど、感染封じ込め対策、強化してまいります。
第3に予防検査、早期治療のための包括強化策です。ポイントのみ申し上げます。包括強化策の第1の柱は、ワクチン接種の前倒しです。医療従事者と重症化のリスクが高い65歳以上の高齢者約3100万人の方々を対象に3回目のワクチン接種を前倒しで行います。
第2の柱は、飲める治療薬の提供開始です。薬事承認を得次第、160万回分確保したメルク社の治療薬を年内から医療現場にお届けいたします。ファイザー社の治療薬200万回分については、来年早い時期から医療現場にお届けできるよう準備を進めます。今夏の感染拡大時には新規陽性者が累積で90万人程度発生し、うち、重症化リスク保有者は専門家によると20万人程度とされました。メルク社の治療薬160万回分というのは感染力が今夏の2倍になり、かつ、中期的な感染拡大が続いた場合でも、軽症者を含め重症化リスクを有する方すべてに対応するのに十分な量であります。
第3の柱は無料検査体制の抜本強化です。まずは、ワクチン接種を受け入れられない方を対象に、年内から予約不要の無料検査をすべての都道府県で開始をいたします。これから年末年始を迎え、人との接触機会が増えることが想定されます。3密の回避や、マスク着用、手洗いをはじめ、基本的な感染対策へのご協力を改めてお願いいたします。海外専門家の中には、オミクロン株への対策として、風邪の初期症状が見られる方は、外出を極力控えるよう呼びかけるべきとの意見もあります。わが国では市中感染が生じている状況ではありませんが、念には念を入れた対応をお願いいたします。
第4に新型コロナでお困りの方への支援です。年末を控え、生活が苦しく年越しに不安を抱える方の声に応えるため、私から補正予算の早期執行を関係大臣に指示いたしました。経済的に困難な学生に対する10万円の給付、住民税非課税世帯に対する10万円の給付などの支援を重層的に講じ、順次、年内から幅広く新型コロナでお困りの方を支援してまいります。12月28日には、孤独・孤立対策の重点計画を取りまとめます。官、民、NPOが連携をし、生活困窮者支援、自殺防止、子供の貧困などの問題に取り組んでまいります。何かお悩みの方が、お悩みのある方はお一人で抱え込まず、ぜひ、国や自治体、あるいは NPOの相談窓口に、ご連絡頂きたいと思っています。
新型コロナによる直接的な影響以外にも、ガソリン価格の高騰、軽石や赤潮による被害、米価下落など国民生活に大きな影響を与えています。政府はこうした問題にもきめ細かく対応してまいります。足元では、生乳の需要減少が、が、失礼。需要減少が、大きな問題になっています。生乳の大量廃棄を防ぐため、特に需要が減少する年末年始に牛乳をいつもより一杯多く飲んでいただく、料理に乳製品を活用いただくなど、国民の皆さんのご協力をお願いいたします。
第5に新しい資本主義です。デジタルやカーボンをキーワードとして大きく変化するこの経済社会において、新たな価値を生み出すためのカギである人への投資、強化して参ります。国だけでメニューを作って支援を行うという、これまでの手法は明らかに限界に来ています。政策の企画立案段階から民間の発想を取り入れることといたします。非正規の方を含め、約100万人の方の能力開発、再就職、転職によるステップアップを支援する際に、働く従業員の方、企業経営に携わる方など、多くの国民の皆さんの声を伺った上で、制度設計を行う新たなやり方にチャレンジをしてまいります。近日中に皆さんのご意見の募集を開始いたします。ぜひ積極的なご提案をお寄せください。
新しい資本主義の大きな特徴は分配を成長への道筋としてど真ん中に位置付けるということです。分配を行うことで成長を支える新たな需要を創出し、次の成長につなげます。分配政策の重要な柱の一つは企業による賃上げです。あらゆる手段を講じて企業が賃上げをしようと思える雰囲気を醸成することが重要です。そのためにも国が率先して公的価格の引き上げを行います。介護、保育、幼児教育などの現場で働く方の給与を来年2月から恒久的に3%引き上げます。看護は来年2月から1%、10月から恒久的に3%引き上げます。加えて中小企業が賃上げをした場合に、その分を適切に価格転嫁できるよう私から産業界に広く協力を要請するとともにそのための施策パッケージを12月27日に取りまとめます。
来年1月から、3月を集中取り組み期間とし、政府を挙げて取り組みます。公正取引委員会と中小企業、企業庁が事業所管官庁と連携し、問題となる事例を幅広く把握するための仕組みを作ってまいります。問題が多い業界に対しては、立ち入り調査や要請を行い、価格転嫁を行いやすくしてまいります。多くの中小企業が直面する急速な原材料費と、エネルギーコストの上昇についても同様に価格転嫁対策を進めてまいります。賃上げを通じた分配はコストではなく、未来への投資です。きちんと賃金を支払うことは企業の持続的な価値創造の基盤になります。この点を企業の株主にも理解してもらうことが必要です。人の価値を企業開示の中で可視化するため、来年度、非財務情報の見える化のルールを策定いたします。デジタル田園都市国家構想についての議論もどんどん進んでいます。デジタル臨調において行政が遵守すべきデジタル原則を策定し、その原則に合うように4万件の法律、政省令、通知などの一括見直しを行います。来春には制度の一括改正のプランを取りまとめます。例えば、制度改革により道路やプラントなどのインフラメンテナンスの規制や自動車の定期点検、介護施設における人材配置規制などの合理化を進めてまいります。
デジタルインフラについては来年3月までに整備計画をお示しいたします。日本全国どこにいても自動走行などの高速、大容量のデジタルサービスを低遅延で使えるよう、10数カ所の地方データセンター拠点を5年程度で整備いたします。5 Gは、現在3割程度の人口カバー率を2023年度に9割に引き上げるとともに、光ファイバーは、2030年までに99・9%の世帯をカバーすべく取り組みます。誰1人取り残されず、全ての人がデジタル化のメリットを享受できる社会の実現を目指してまいります。高齢者をはじめ、デジタルに不慣れな方などをサポートするために、1万人以上のデジタル推進委員を全国津々浦々で展開します。先日、車座対話の一環として訪問した会津では、自治体、企業、住民、大学が連携し、まさにデジタル田園都市と呼ぶべき新たな時代の地域づくりを進めていました。住民と協力しながら、デジタルの社会実装を進め、新しい時代の地域づくりを推進するハブとなれる経営人材を国内100地域に展開いたします。
気候変動問題について、2030年、2030年度、46%の削減、2050年カーボンニュートラルの目標、これはもちろん堅持いたします。私は気候変動問題は新しい資本主義の中心に位置する問題であると捉えています。エネルギー基本計画といった供給側目線での目標を出すだけではなく、社会、経済社会や産業全体が直面する、数世代に一度の変革をわが国がどう成し遂げるか、経済社会変革の全体像と合わせて道筋を丁寧に示すことが重要です。年明けには、新しい資本主義実現会議の議論と気候変動問題に関する議論をどのように連携させていくか、お示ししたいと思っています。
第6に、外交安全保障です。来年は積極的に首脳外交を推し進める1年にしたいと思っています。先般、オンラインで開催された民主主義サミットに参加をいたしました。自由、民主主義、人権、法の支配といったわれわれが大切にする基本的価値を損なう行動に対して同志国が一致してワンボイスで望んでまいります。日程は調整中ですが、バイデン大統領との、バイデン大統領と早期に会談を行い日米同盟の抑止力、対処力を一層強化していくとともに、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた協力を新たなレベルに引き上げてまいります。経済面では、私が掲げる新しい資本主義の考え方を説明し、ビルドバックベターを掲げるバイデン大統領との連携を深め、グローバルな議論をリードしてまいります。私が目指す、核兵器のない世界の礎石というべきNPTの運用検討会議が、7年ぶりに年明け1月4日からニューヨークにおいて開催されます。極めて重要なこの会議を成功させるために、わが国として全力を尽くしてまいります。先般のアフガニスタンにおける経験を踏まえ、海外で邦人が危機にさらされた際の輸送に万全を期すため、自衛隊法の改善について検討を指示いたしました。
第7に、憲法改正です。今国会では、私が総理大臣になってから初めての憲法審査会が開催されました。国会において憲法改正についての議論が始まったことを歓迎いたします。通常国会では、さらに議論が深まることを心から期待をいたします。合わせて自民党総裁として、党改革、進めてまいります。年明けから地方の意見も聞きながら、さらに議論を加速させていきます。この国会中には、統計の信頼性や公文書のあり方に関し、様々なご指摘をいただきました。私はいずれも国民の皆さんから、政治への信頼を得るために大変重要なものであると考えています。法曹界の専門家にも参画してもらう、もらった上での統計の二重計上問題についての厳正な事実究明や、公文書に関する裁判手続きに沿った中立、真摯、丁寧な対応を行うことが、国民の信頼回復のためには不可欠です。関係省庁がこうした対応をしっかり行うよう、厳しく監督指導、指導してまいります。
今年も残すところあとわずか10日となりました。年内に予算を編成すべく、引き続き手綱を緩めず取り組んでまいります。
年が明ければすぐに通常国会です。令和4年度予算、そして税制関連法案の早期成立や新型コロナ対応、新しい資本主義の実現などに向けた重要法案の成立に向け、力の限り尽くしてまいります。
今年より来年が良くなる、未来に対する希望を持てる日本を作るため、来年も挑戦をし続けます。国民の皆さんのご協力を心からお願いを申し上げます。