2021年12月10日
核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合
令和3年12月9日、オンラインで開催された「第3回核軍縮の実質的な進展のための1.5トラック会合」に出席し、以下のように発言致しました。
御列席の皆様、スラウビネンNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議議長候補、中満(なかみつ)国連事務次長、そして、世界各国からお集まりいただきました全ての皆様を心より歓迎いたします。
本日の会合は、来年1月のNPT運用検討会議に向けて、議論を深めるために開催するものです。
私は、核兵器国、非核兵器国の双方が参加するNPTを国際的な軍縮・不拡散体制の礎石として重視しています。
外務大臣時代には、前回、2015年のNPT運用検討会議に、外務大臣として10年ぶりに出席しました。私は合意の形成を目指し、2014年の広島NPDI(軍縮・不拡散イニシアティブ)外相会合を含め、NPDIで何度も議論を重ね、合意文書案を提出するなどして臨みましたが、最終的に、合意文書の採択に至らず閉幕する結果となりました。
その知らせを聞いたとき、私は地元広島に戻っていましたが、広島の皆さんの前で、被爆70年の節目に開催された会議がまとまらず、『大変残念だ』と述べたことをよく覚えています。
あれから6年が経ちました。
NPTの下での核軍縮の進展のなさへの焦燥感は、核兵器禁止条約の採択にもつながりました。
核兵器禁止条約は、核兵器のない世界への出口とも言える重要な条約です。しかし、この条約には、その目的を達成するために不可欠な核兵器国が1か国も参加しておらず、現状では、この条約をめぐっても、各国の立場は分断されたままです。また、この間、我が国を取り巻く安全保障環境は、これまで以上に急速に厳しさを増しています。我が国の周辺では、核戦力を不透明な形で増強する動きも見られ、核兵器を運搬するミサイル技術の高度化も進んでいます。
北朝鮮による核・ミサイル活動は、日本のみならず、国際社会の平和と安全を脅かしています。
加えて、立場の異なる国々の間の分断が深まり、核軍縮を協力して前に進めるための共通の基盤が失われつつあります。
これが、今、我々が直面している厳しい現実です。
こうした中、来年1月に、次回NPT運用検討会議が開催されます。今回の会議も、前回と同様、失敗に終わるのではないか、何の文書も採択できないのではないか、と危惧する声が多いと聞きます。
しかし、この厳しい現実に手をこまねいていることはできません。この状況を打破するための一歩を、来るNPT運用検討会議で記さなければなりません。
私は外務大臣時代、核兵器国と非核兵器国の双方が関与し、核兵器国を実際に動かさないと、何も物事は進まないことを強く認識しました。
だからこそ、我が国は、唯一の同盟国である米国の信頼を得た上で、唯一の戦争被爆国として、核兵器国を関与させつつ、立場の異なる国々の間の関係を分断から協調へと導いていかなければならないと考えています。
そのために、次回NPT運用検討会議において、核兵器のない世界に向けた実質的な前進となる合意文書の採択を目指して、全力で取り組んでまいります。
我が国は合意の形成に向け、積極的な役割を果たすべく、合意文書に盛り込むべき要素のアイデアを国連総会決議という形で提案し、3日前に、158か国の賛成をもって採択されました。
また、NPDIの同志やストックホルム・イニシアティブの友人たちとも、作業文書を運用検討会議へ提出しました。
今後、NPT運用検討会議での合意実現に向けた機運を高めるべく、先日、私の補佐官に新たに任命した寺田稔(みのる)核軍縮・不拡散担当補佐官を関係国に派遣します。
私自身も合意文書の採択を実現すべく、世界各国のリーダーへ積極的な働きかけを続けます。
皆様、今回の運用検討会議では、NPTという礎石を堅固なものとし、核兵器国と非核兵器国の信頼関係を再構築した上で、この成果を核兵器のない世界という出口へとつないでいかなければなりません。
そして、このような出口にたどり着くためには、なすべきことが多くあります。CTBT(包括的核実験禁止条約)の早期発効やFMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)の即時交渉開始といった効果的な核軍縮措置に向けた取組を積み重ね、核兵器の質的・量的向上の制限を掛け、国際的に信頼できる検証体制の構築に向け、努力を傾注しつつ核兵器の数を着実に減らしていく。こうして、核兵器のない世界という目標にたどり着く、これが日本の考える核兵器のない世界への道筋です。
皆様、残念ながら、世界の現実は、核兵器の廃絶はもとより、数の削減の議論すら進んでおらず、むしろ、核兵器の数が増大していくおそれもあります。
このような厳しい現実の中で、核兵器の削減を可能にする確固たる基盤を築き上げる上での鍵となるのは何か。私は全ての大前提は、核戦力の透明性だと考えます。透明性が低ければ、本当に核軍縮を実施しているのか検証することもできません。また、核軍縮のために行った措置が後戻りしないものなのか確認することもできません。核戦力の透明性を高めることこそが、核兵器国が実際に核兵器を削減していくための第一歩ではないでしょうか。
そうした観点から、我が国は、米国が核兵器の数を一方的に開示する取組を再開したことを歓迎いたします。
我が国は、全ての核兵器国に対して、核弾頭数や運搬手段を含む核戦力についての更なる情報開示を求めてまいります。
その他にも、P5プロセスにおいて、NPT運用検討会議に向けた取組が様々議論されていると承知しています。核軍縮を含む全ての柱について、バランスの取れた形で、意義ある成果が収められることを期待しています。
皆様、本日の会合では、次回運用検討会議を有意義な成果へと結実させるべく、核兵器国、非核兵器国、それぞれの国の立場を超えて、知恵を出し合い、核兵器のない世界の実現に向けた具体的な道筋について、自由闊達(かったつ)に議論していただきたいと思います。
核兵器廃絶という我々が共に目指す出口に向けて、今こそ大きな一歩を踏み出しましょう。ありがとうございました。
→動画はこちら(政府インターネットテレビ)