第213回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
施政方針演説について
毎年1回、1月中に召集される通常国会では、内閣総理大臣により、その年の内閣全体の基本方針を示すものとして、施政方針演説が行われるのが通例となっています。
令和6年1月30日、衆議院・参議院それぞれの本会議において、岸田総理により、施政方針演説が行われました。
一 能登半島地震
元日に発生した令和六年能登半島地震。震災によって亡くなられたすべての方々の御冥福を心からお祈りします。また、被害に見舞われ、厳しい生活を送っておられる被災者の方々に、改めてお見舞いを申し上げます。
今回の震災では、厳しい状況が幾重にも重なりました。
半島特有の道路事情による交通網の寸断。海底隆起や津波被害による海上輸送の途絶。水道、電気、通信などライフラインの甚大な損傷。地震に弱い木造家屋が散在する小さな集落の孤立。高齢者比率五割を超える地域社会への直撃。
悪天候と度重なる余震の中で、地元自治体、自衛隊、全国からの警察・消防の派遣部隊や自治体の応援職員、医療・福祉や道路、電力等の緊急対応チームはじめ多くの皆さんが不眠不休で、また、倒壊の危険の中で、救命救助活動やインフラ復旧に当たっていただいています。心から感謝申し上げます。
こうした厳しい状況の中でも、なによりも素晴らしいのは、被災者の皆さん、また、支援に携わる皆さんの整然とした行動と「絆の力」です。発災直後の大混乱した状況は、皆さんの忍耐強い協力によって段々と落ち着きを取り戻しています。「能登はやさしや土までも」と言われる、外に優しく、内に強靱な能登の皆さんの底力に深く敬意を表します。
政府・地元が一体となって被災者に寄り添い、生活と生業をしっかり支えていく息の長い取組を続けてまいります。また、被災者の皆様の命と健康を守るためにも、先行きの不安や懸念を解消しつつ、二次避難を広げていきます。
異例の措置でもためらわずに実行していきます。例えば、昨年末に決めたばかりの令和六年度予算案の変更を決断し、一般予備費を一兆円に倍増しました。予算の制約により震災対応を躊躇することがあってはならないとの決意です。今後、支援のフェーズは段階的に変わっていきますが、政府としては切れ目なく「できることはすべてやる」という考え方で、全力で取り組んでいきます。
また、私をトップとした「令和六年能登半島地震復旧・復興支援本部」を新たに設置することとしました。「被災者の生活と生業支援のためのパッケージ」を着実に実行し、被災者の帰還と能登を含めた被災地の再生まで責任をもって取り組む決意です。
(被災地での所感)
先日、被災地を訪問し、輪島と珠洲の避難所に伺いました。大変な御苦労の中、様々な不安を抱えておられるとの声をお聞きしました。また、被災者支援や復興に向けて貴重なお話を伺いました。
一方、過去の災害対応に比べて、新しい取組がいくつも生まれており、強く印象付けられました。
・道路が寸断され、空港も使えない中で、「新たな官民連携」による一気通貫の物流システムが動きだしていました。自衛隊ヘリが都市部や海上からの空輸を担い、民間物流業者が荷捌き倉庫での管理や小口のトラック配送をきめ細かく行い、その先の交通途絶した避難拠点には自衛隊員が四十キロの支援物資を担いで配送するという組み合わせが短期間に動いています。
・断水していても使える温水シャワーが避難者の疲れを癒し、活躍しています。生活用水を循環ろ過し、再利用する技術をもつスタートアップ企業が持ち込んでくれました。アフリカや中東で展開している事業の逆輸入です。停電・断水でも使用可能なトイレトレーラーも全国から届けられました。
・孤立集落での自衛隊の救助活動と連携した医薬品のドローン配送、立ち入り困難な現場の上空からの被災状況調査、無線中継ドローンによる携帯回線の応急復旧等、本格的なドローンによる災害対応が行われています。
これらに共通しているのは、日本人の伝統的な強みである「絆の力」がデジタル、スタートアップ、新たな官民連携、資源循環など新しい要素と組み合わされてパワーアップし、日本の「新たな力」となっている姿です。
二 成果を実感する年に
震災の現場だけではありません。日本経済の色々な場面で「新たな力」が動き出しています。
政権を担って二年四か月。三十年間続いたコストカット経済から脱却し、社会課題解決に新たな官民連携で取り組むことで、賃上げと投資がけん引する「新しい資本主義」を実現し、日本を大きく動かしていきます。
三十年ぶりの水準となった賃上げ、設備投資、株価。日本経済が新たなステージに移行する明るい兆しが随所に出てきています。
今、我々は、長い間、日本経済に染み付いたデフレから完全脱却し、熱量溢れる新たな成長型経済に移行していくチャンスを手にしています。
このチャンスを掴み取り、絶対に後戻りさせない。この強い決意が政治に問われています。本会議場に集う国会議員の皆さん、今年、令和六年を、「これまでの積み上げを形に」し、国民の皆さんに「成果を実感していただく年」とするため、政治の総力を挙げて断固として取り組もうではありませんか。
震災への対応、デフレ完全脱却、そして緊迫する国際情勢への対応。日本は、内外共に正念場を迎えています。
重要政策をしっかり進めていかなければなりません。
外交の舵取りをしっかり果たしていかなければなりません。
三 政治刷新本部
しかしながら、政治の安定なくして政策の推進はありません。そして、国民の信頼なくして政治の安定はありません。
いま、その信頼が揺らいでいる。
自民党の政策集団の政治資金の問題で、国民から疑念の目が注がれる事態を招いたことは、自民党総裁として極めて遺憾であり、心からお詫び申し上げます。
「政治は国民のもの」との立党の原点に立ち返って自民党は変わらなければならない。この決意と覚悟をもって「政治刷新本部」において集中的な議論を行いました。
信頼回復の第一歩として合意した「中間とりまとめ」においては、政治資金の透明性やコンプライアンスの徹底など運用面での改革を先行して進めつつ、制度面での改革については、各党各会派との真摯な協議を経て、政治資金規正法改正など法整備を実施していくとしています。
また、自民党内の政策集団が、いわゆる「派閥」、すなわち「お金と人事のための集団」と見られても致し方ない状況にあったことを率直に認め、真摯に反省し、政策集団が「お金」と「人事」から完全に訣別することを決めました。
政治の信頼回復に向けて、私自身が先頭に立って、これらを必ず実行してまいります。政治改革に終わりはなく、今後も引き続き、政治刷新本部においてさらなる改革努力を継続していきます。
国民の信頼回復を果たして政治を安定させ、その上で重要政策を実行してまいります。
四 経済
昨年十月の所信表明で「経済、経済、経済」と申し上げました。その思いは今も全く変わっておりません。
「経済の再生」が岸田政権の最大の使命である。もう一度この場でお誓いいたします。
経済、とりわけ、賃上げが今まさに喫緊の課題として求められています。
(物価高に負けない賃上げ)
昨年は、三十年ぶりの高い賃上げ水準となり、最低賃金も過去最大の上げ幅となりました。この流れを今年につなげ、国民の皆さんに実感いただくため、政府による「公的賃上げ」も行います。
全就業者の十四%を占める医療や福祉分野の幅広い現場で働く方々に対して、物価高に負けない「賃上げ」を確実に実現してまいります。
公共事業や給食はじめ公共サービスの調達でも「賃上げ」がしっかり行われるよう、単価設定と調達制度改革を進めています。
その上で、中小企業やパート、非正規で働く方々の賃上げです。
赤字の中小企業や医療法人も使えるように賃上げ税制を拡大強化しました。中小企業の労務費上昇のスムーズな転嫁を後押しする公正取引委員会等の強力な指針も作りました。遵守に向けて全国で周知徹底を進めています。
また、パートで働く方々にとって長年の課題だった「年収の壁」解消のための支援策の活用を拡大していきます。
さらに、価格転嫁が厳しいトラックドライバーの大幅な賃上げに向け、「標準的な運賃」を引き上げるとともに、適正な運賃導入を進める法案も提出します。
建設業についても、賃上げ原資を確保するため、国が適正な労務費の目安を予め示した上で、個々の工事の下請契約等が行われることを促す法案を提出します。
いずれも、「賃上げ」のために力強い後押しとなります。
急激な物価高から国民生活を守る手立ても緩めません。
ガソリンや電気・ガス料金では、機動的に家庭や地域の足の負担を抑制するため激変緩和措置を講じてきました。物価高に直撃されている年金世帯を含む住民税非課税世帯への一世帯七万円の追加給付も着実に動き出しています。より幅広い低所得者世帯への給付、子育て世帯への追加給付などきめ細かい支援を進めます。
そして、本丸は、物価高を上回る所得の実現です。あらゆる手を尽くし、今年、物価高を上回る所得を実現していきます、実現しなければなりません。
政労使の意見交換において、昨年を上回る賃上げを強く呼びかけ、春季労使交渉ではそれに呼応する動きが広がっています。政府としてもこのモメンタムを保っていくべく全力を挙げます。
春からの賃上げに加えて、六月からは一人四万円の所得税・住民税減税を行い、可処分所得を下支えします。官民が連携して、「賃金が上がり、可処分所得が増える」という状況を「確実に」作り、国民の実感を積み重ねることで、長年続いてきた縮み志向の意識ではなく、「賃金が上がることが当たり前だ」という前向きな意識を社会全体に定着させてまいります。
持続的な賃上げを可能とするための「人への投資」を進めます。三位一体の労働市場改革を早期かつ着実に進め、多様な働き方を促すためのセーフティネットの拡充、教育訓練やリ・スキリング支援の強化を図るための法整備も進めていきます。
(稼ぐ力の強化)
賃上げを生み出す企業の「稼ぐ力」の強化にも大きく踏み込みます。
設備投資は過去最大規模の名目百兆円を実現する見込みです。これを更に進めるため「国内投資促進パッケージ」では、水素や半導体など未来志向の戦略的投資を促進するため、初期投資のみならず、「生産段階でのコスト」にも着目した税額控除措置を講じるなど、過去に例のない投資減税や補助を講じることとしました。
地域経済をけん引する、中堅・中小企業も、省力化投資の支援措置などしっかりと後押しします。
戦略的なインフラ整備も重点的に進めます。震災からの復興に向けて三月十六日の北陸新幹線の延伸を予定通り進めるとともに、リニア中央新幹線の整備に向けた環境を整えるほか、道路空間をフル活用した自動物流システム構想を早期に実現していくなど、物流革新を進めます。
(GX(グリーン・トランスフォーメーション))
脱炭素と経済成長の両立を図るGXを進めていきます。世界初のGX経済移行債二十兆円を活用し、産業・くらし・エネルギーの各分野での投資を加速します。加えて、今国会には、水素、CCS(二酸化炭素回収・貯留)、洋上風力の導入拡大のための法案を提出します。
さらに、カーボンプライシング制度の令和八年度本格導入に向けて、大企業の参加義務化や個社の削減目標の認証制度の創設を視野に法定化を進めていきます。原子力発電についても、脱炭素と安定供給に向けた有効な手段の一つとして、安全最優先で、引き続き活用を進めてまいります。
初の首脳会合を開いた「アジア・ゼロエミッション共同体」の取組を加速します。アジア諸国の多様な取組に日本の技術力や金融力で貢献し、同時に、アジアの成長力を我が国に取り込んでいきます。
(イノベーション・スタートアップ)
科学技術は、産業構造転換の鍵であり、未来を切り拓く礎です。一九九五年来、科学技術基本法のもと目指してきた「科学技術創造立国」を令和においても真に実現するため、長期的ビジョンを持った国家戦略を策定します。
AI(人工知能)については、規制と利用促進を一体的に進めます。昨年のG7広島サミットで創設した「広島AIプロセス」の成果として、生成AIのリスクへの対処を目的とした、初の国際的な枠組みである「包括的政策枠組み」に合意しました。AIの安全性の評価手法の研究機関を設立します。
宇宙分野についても、今月、日本の小型実証機が初めて月面着陸しました。アルテミス計画において、二〇二〇年代後半の米国人以外で初となる日本人宇宙飛行士の月面着陸を目指し、民間と共同で進めます。
バイオ、量子、フュージョンエネルギーなどの技術についても中長期的視点をもって取り組み、投資促進、規制改革を進めます。また、通信事業での国際競争力強化、研究開発の促進のために取組を進めます。
「スタートアップ育成五か年計画」を加速し、新しい挑戦を後押しします。スタートアップの資金調達は十年間で約十倍となるなど、順調な増加基調にあります。人材育成、資金供給、オープン・イノベーションを着実に推し進め、成長意欲が高い中堅企業に対する支援も拡充します。
(大阪・関西万博)
新型コロナや大規模な自然災害を乗り越え、いのちへの向き合い方、社会の在り方を問い直す機会となる大阪・関西万博の成功のため、オールジャパンで進めていきます。万博の主要な費用については、外部専門家の知見も活用し、その適正性を継続的にモニタリングしていきます。
(資産運用立国)
二千兆円を超える日本の個人金融資産を「国民所得の伸び」と「稼ぐ力」に役立てます。年初から抜本的に拡充した「新NISA(少額投資非課税制度)」がスタートしました。
家計の資金が投資に向かい、企業価値向上が家計の所得増につながり、さらなる投資や消費が生まれる、という好循環の実現を目指します。コーポレートガバナンス改革の実質化に加え、資産運用業とアセットオーナーの運用力の向上に取り組み、我が国のインベストメント・チェーンを強化していきます。
(経済財政運営)
歳出改革を継続しながら、「賃上げ」の取組を通じて所得の増加を先行させ、デフレからの完全脱却を果たすことは、高齢化等による国民負担率の上昇の抑制につながり、財政健全化にも寄与します。経済あっての財政であり、まず、経済を立て直し、そして、財政健全化を着実に進めます。
五 社会
日本経済の最大の戦略課題は「デフレ完全脱却」である一方、日本社会の最大の戦略課題は「人口減少問題」です。
民間有志による「人口戦略会議」の提言の深刻な危機感も踏まえつつ、「いま政府ができることはすべてやる」との構えで全力を挙げていきます。
(包摂的な社会の実現)
第一は、こども・子育て政策です。
前例のない規模でこども・子育て政策の抜本的な強化を図ることにより、我が国のこども一人当たりの家族関係支出は、GDP(国内総生産)比で十六%とOECD(経済協力開発機構)トップのスウェーデンに達する水準となり、画期的に前進します。
財源確保については、まずは徹底した歳出改革等によって確保することを原則とし、歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することで、国民に実質的な負担が生じないこととしています。
今年は、児童手当の抜本的拡充、高等教育の負担軽減、保育所の七十六年ぶりの配置改善、児童扶養手当の拡充など、いよいよ政策が本格実施されるステージに入ります。
今国会に必要な法案を提出し、スピード感を持って、実行に移してまいります。
単に制度や施策を策定するのではなく、社会全体で、こどもや子育て世帯を応援する機運を高める取組を車の両輪として進めてまいります。
こどもに対する性犯罪・性暴力は重大な人権侵害であり、あってはならないことです。こどもの性被害を防止するための法制度について、今国会での法案提出を目指し、より実効的な制度となるよう検討を進めます。
また、質の高い公教育の再生、教育の国際化とともに、教職員の処遇見直しを通じた質の向上を図っていきます。
女性の活躍を全力で後押しします。これまでの取組もあり、女性の有業率は五十三・二%で過去最高。特に、二十五歳から三十九歳は初めて八割を超えました。これを更に進めるため、女性役員比率の目標等に向け、人材の採用・育成を支援します。また、男女ともに仕事と育児の両立ができるよう支援策を充実させていきます。
高齢者や御家族の皆様にとって切実である認知症への対応も進めます。関係者の思いが込められた認知症基本法が今月から施行されました。認知症の方御本人、御家族に御参加いただいた「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」の成果を、基本計画の策定や独居高齢者を含めた高齢者の生活上の課題への取組にいかしてまいります。
これらの取組を通じ、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての方が生きがいを感じられ、その尊厳が損なわれることなく、多様性が尊重される、包摂的な共生社会を実現してまいります。
(デジタル行財政改革)
人口減少に適応しつつ、国民のニーズの多様化、複雑化に対応するために、デジタル行財政改革が求められています。デジタルの力をいかして、人手不足が深刻化する中、公務員の数を増やさずに行政サービスを持続できる環境を作ります。あわせて、基金の見直しや、予算事業の見える化などを推進します。
さらに、利用者起点で発掘した課題を踏まえ、デジタルと規制改革を組み合わせて課題を解決していく方策を実行していきます。その際、デジタル社会のパスポートであるマイナンバーカードの利便性向上を徹底的に進めます。
特にライドシェアの課題については、地域の自家用車や一般ドライバーを活用した新たな運送サービスが、四月から実装されるよう、制度の具体化と支援を行います。これらの施策の実施効果を検証しつつ、ライドシェア事業に係る法制度について、六月に向けて議論を進めます。
自動運転についても、二〇二四年度において、社会実装につながる「一般道での通年運行事業」を二十か所以上に倍増し、全ての都道府県での計画・運行を目指します。
六 地方創生
地方創生なくして、日本の発展はありません。それぞれの地域においても、「絆の力」を基礎に、新しい取組が始まっています。観光や農業などの基幹産業の発展を支援し、そして安心して暮らせる地域を守り抜いていかなければなりません。
(観光・農業)
地方の成長も後押しするため、二〇三〇年訪日客六千万人、消費額十五兆円を目指します。その際、一部の地域・時期への偏在によるオーバーツーリズムを未然に防止し、全国津々浦々に観光の恩恵を行き渡らせるため、観光地・観光産業の高付加価値化と地方部への誘客を強力に推進します。
地方が支える農業は国の基(もとい)です。我が国の農業が直面する、食料や肥料の世界的な需給変動、環境問題、国内の急激な人口減少と担い手不足といった、国内外の社会課題を正面から捉え、これらの克服を、地域の成長へとつなげていくべく、農政を抜本的に見直します。
このため、農政の憲法と位置付けられる「食料・農業・農村基本法」について、制定から四半世紀を経て初の本格的な改正を行うべく、今国会に改正法案を提出します。
さらに、不測時の食料安全保障の強化、農地の総量確保と適正・有効利用、食品原材料の調達安定化、スマート農業の振興を体系的に推進するため、これらの関連法案も、今国会に提出します。
あわせて、グリーン農業、循環型林業、養殖業への転換など、環境に配慮した持続可能な農林水産業及び食品産業への転換を促進するとともに、国内の生産基盤の維持の観点も踏まえ、農林水産物の輸出を、より一層促進してまいります。
農政の基本は現場にあります。現場で日々汗を流し、苦労をされている方々に寄り添い、その前向きな取組を後押しする農政を展開してまいります。
(安全・安心、福島復興)
平時から「安全・安心」を守り抜きます。能登半島地震を含め、激甚化する自然災害を踏まえ、ハード・ソフト両面から、流域治水やインフラ老朽化対策をはじめとする防災・減災、国土強靱化の取組を継続的に進めてまいります。
また、地域における持続可能なインフラ整備に向けて、官民連携により、流域における総合的な水管理を推進するとともに、空き家・遊休不動産を積極的に活用するスモール・コンセッションなどを推進します。また、資源のリサイクル等を進め、地域での資源循環を強化します。
福島の復興は政権の最重要課題です。生活や生業を取り戻すため、政府としても全力で取り組みます。また、ALPS(多核種除去設備)処理水放出を受けた中国等による日本産水産物の輸入停止に対し、即時撤廃を求めるとともに、影響を受ける水産物の国内の需要拡大や新たな輸出先の開拓、国内での加工体制の強化等を着実に進め、我が国の水産事業者を守ります。
年初の羽田空港の衝突事故を受け、二度とこのような事故が起きないよう、ハード・ソフト両面から再発防止対策に迅速に取り組むとともに、運輸安全委員会による原因究明を踏まえ、航空の安全・安心に向けた抜本的な対策を講じてまいります。
七 外交・安全保障
国際社会は「緊迫」の度を一層高めています。ウクライナ侵略や中東情勢はもとより、米国大統領選をはじめ、今後の世界の行方を左右する重要な国政選挙も目白押しです。G7広島サミット、キャンプ・デービッドでの日米韓首脳会合など、これまでの積み重ねを形にし、日本ならではのアプローチで、世界の安定と繁栄に向け、国際社会をリードします。
(各国との関係深化)
まず、同盟国、同志国との連携が重要です。四月前半に予定している国賓待遇での訪米などの機会を通じ、我が国外交の基軸である日米関係を更に拡大・深化させます。日米同盟を一層強化して我が国の安全保障を万全なものとし、地域の平和と安定に貢献します。また様々なチャネルを通じ、サプライチェーン強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における日米間の連携を強化します。
先月東京で開催した日・ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力五十周年特別首脳会議の成果も踏まえ、また、日米豪印などを活用しつつ、関係各国との連携を強化し、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋の推進における協力を一層進めます。
国際的課題への対応などで協力していくべき重要な隣国である韓国とは、尹(ユン)大統領との信頼関係を礎に、幅広い連携を更に拡大・深化させるとともに、日米韓三か国での戦略的連携や、日中韓の枠組みも前進させます。
中国に対しては、昨年十一月の習近平国家主席との首脳会談をはじめ、あらゆるレベルでの意思疎通を重ねてきています。これからも、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するとともに、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みに対するものを含め、我が国として主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め対話を行い、共通の諸課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。
対露制裁、対ウクライナ支援はこれを今後とも強力に推し進めます。二月には東京で、日・ウクライナ経済復興推進会議を開催する予定です。日露関係は厳しい状況にありますが、我が国としては、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
(拉致問題)
拉致被害者御家族が高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題であり、政権の最重要課題です。また、北朝鮮による核・ミサイル開発は断じて容認できません。
全ての拉致被害者の一日も早い御帰国を実現し、日朝関係を新たなステージに引き上げるため、また、日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決するためにも、金正恩委員長との首脳会談を実現すべく、私直轄のハイレベルでの協議を進めてまいります。
(グローバル・サウスとの連携)
昨年の広島サミットでは、G7以外の首脳らも一堂に会した場で、法の支配、主権や領土一体性の尊重等の重要性について認識を一致させることができました。この成果を土台としながら、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化を進め、ブラジルでのG20(金融・世界経済に関する首脳会合)などの機会を捉え、グローバル・サウスとの連携も深め、世界を分断や対立から協調に向け、導いてまいります。
また、食料危機や気候変動、感染症などの世界的諸課題に対しても、「人間の尊厳」を中心に据えた外交、国際協力を、日本ならではの強みをいかしつつ、推進します。
(核兵器のない世界)
ロシアの核兵器による威嚇や北朝鮮の核・ミサイル開発等により、核軍縮をめぐる情勢は厳しさを増しています。
しかし、そのような中だからこそ、昨年発出した「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」を強固なステップ台としつつ、国際賢人会議の叡智も得ながら、「ヒロシマ・アクション・プラン」の下での取組を一つ一つ実行し、「核兵器のない世界」に向け、現実的で実践的な取組を継続・強化します。
(防衛力の抜本的強化)
我が国が戦後最も厳しい安全保障環境のただ中にあることを踏まえ、防衛力の抜本的強化を着実に具体化し、自衛隊員の生活・勤務環境、処遇の向上にも取り組みます。
また、日米安全保障体制を基軸とする日米同盟は、グローバルな安定と繁栄の「公共財」として機能しており、同盟の抑止力・対処力を一層強化します。
基地負担の軽減にも引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、沖縄経済を強化すべく支援を継続します。
防衛力の抜本的強化に必要な財源確保についても、一昨年末の閣議決定の枠組みに基づいて方向性を明確化し、取り組みます。
防衛力の強化や外交・安全保障とともに経済安全保障の抜本的強化が急務です。セキュリティ・クリアランス、サイバー・セキュリティ強化に取り組みます。
我が国のサイバー対応能力の向上はますます急を要する課題であり、関連の法整備に関し、可能な限り早期に法案をお示しできるよう、検討を加速します。
八 憲法改正・皇位継承
その他の先送りできない課題についても取り組んでいきます。
まずは、憲法改正です。衆・参両院の憲法審査会において、活発な議論をいただいたことを歓迎します。国民の皆様に御判断をいただくためにも、国会の発議に向け、これまで以上に積極的な議論が行われることを期待します。
また、あえて自民党総裁として申し上げれば、自分の総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはなく、議論を前進させるべく、最大限努力したいと考えています。今年は、条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速してまいります。
安定的な皇位継承等への対応については、皇族数確保のための具体的方策等を取りまとめ、政府から国会に御報告しております。早期に「立法府の総意」が取りまとめられるよう、国会において積極的な議論が行われることを期待します。
九 結語
平成二十八年の熊本地震では、価値ある多くの陶芸品が破損しました。それに手を差し伸べたのは、輪島塗の職人でした。
割れた陶器の破片を集め、漆と金でつなぎ合わせる輪島塗の「金継ぎ」という技法で、見事に修復しました。被災地熊本の作品と、輪島塗の伝統技術が融合した新しい芸術作品は、美しい復興の象徴として人々に感動を与えました。被災地を思う「絆の力」と、若者たちのアイデアと、クラウドファンディングによる支援が組み合わされ、日本の新たな力が輝いた瞬間でした。
同じ被災地だからこそ寄り添った対応ができる。保健所への職員の派遣、寄付金事務の代行、被災鉄道への支援、若い世代も含め、今度は熊本から石川に「八年前の恩返し」の動きが広まっています。
伝統と若さ、民間企業と公的機関、地域社会とスタートアップ。今回の震災の復興に当たっても、こうした様々な組み合わせによって生まれる「新たな力」が、能登を取り戻す原動力となっています。
「新たな力」は被災地にとどまるものではありません。最初から世界での活躍を見据える志を持つ若者。地域の課題を新たな技術で解決する試み。国民一人一人が持ち場でコツコツと地道に取り組んでいる現場。様々な場面で「新たな力」が生まれていることに気づかされます。
この営みをつなぎ合わせ、デジタル、グリーン、官民連携、スタートアップなどの新しい要素と組み合わせていく。そうすれば、「明日は今日より良くなる日本」に向かう確かな力になっていくと確信します。
日本を変えていくこのチャンスを必ず掴み取る。
与野党それぞれの立場はありますが、議員各位とともに次の世代のために全力を尽くそうではありませんか。
国民の皆さんの御理解と御協力を重ねてお願い申し上げます。
御清聴ありがとうございました。
施政方針演説の動画
岸田内閣総理大臣施政方針演説の動画は官邸ホームページでご覧ください。