■第50回ミュンヘン安全保障会議出席

 岸田文雄外務大臣は平成26年2月1日、ドイツのミュンヘンにおいて開催された第50回ミュンヘン安全保障会議に出席しました。
 この会議は、ドイツのガウク大統領をはじめとして、アメリカ・フランス・イギリス・ロシアないどの欧米各国、イラン・トルコなどの中東各国、国連事務総長やEU議長など国際機関など、グローバルな視点における安全保障問題を議論する会議です。
 この会議において岸田文雄は日本国外務大臣として、「地球儀外交」「積極的平和主義」をはじめとする日本の安全保障について、また日本が戦後一貫して、平和国家としての道を歩んできたこと、日本の安全保障政策もこれまでの日本の歩みの延長線上にあることを、国際社会に発信しました。
 また、この会議で発行された「セキュリティー・タイムス」紙に岸田文雄は寄稿いたしました。


◆ミュンヘン安全保障会議における岸田外務大臣による総括発言

1.議論の総括
 スタヴリディス大将、ありがとうございました。
 ミュンヘン安全保障会議の50周年にふさわしい、中身の濃い、素晴らしい議論でした。パネリストの皆様、そしてイッシンガー会長を始め関係者の皆様に、感謝とお祝いを申し上げます。
 欧州、米国、アジアという、世界の平和と繁栄に大きな責任を有する3つの地域がいかに連携していくか。私自身、「グローバル・パワーと地域の安定」を見つめ直す機会となりました。
 次の50年、それぞれの地域、さらに世界の安全保障はどうなるのか。その答えは、グローバル・パワーのビジョンと果たす役割にかかっている。今朝の議論を総括すれば、こうなるのでしょう。これを現実のものとするには、言葉だけではなく、強い意志と協力の精神が不可欠です。決して自明ではありません。
 50年前と異なり、今や世界は、インターネットで「つながって」います。人々の見方に影響を与えようと、様々な試みがサイバー空間で繰り広げられる。そういう時代だからこそ、このように直接会って、お互いの考えについて理解を深めることが一層重要だとも痛感しました。
 ですから、私からも、「グローバル・パワーと地域の安定」に関する日本のビジョンをお話ししたいと思います。

2.日本のビジョン
 日本のビジョンは、「国際協調主義に基づく積極的平和主義」です。
 日本は、主要なグローバル・プレーヤーとして、関係国とも連携しながら、地域及び国際社会の平和と安定、そして繁栄のために一層積極的な役割を果たしていきます。このことを、昨年末に策定した「国家安全保障戦略」で明らかにしました。
 米国、欧州、ASEAN諸国、オーストラリアなど、多くの国から確固たる支持を得ていることを嬉しく思います。
 さきほどの議論では、日本が歴史を否定しているかのような発言がありました。日本は歴史を直視し、先の大戦や植民地支配について、反省の気持ちを明確に表明しています。日本の戦後の平和国家としての歩みがその証左です。日本は、戦後一貫して、東アジアにおける自由、民主主義、人権、法の支配を擁護し、これらの価値のチャンピオンとして、地域そして世界の平和と繁栄に貢献してきました。日本は、今後も、平和国家としての道を歩んでいきます。日本の安全保障政策も、当然、これまでの日本の歩みの延長線上にあります。

3.積極的平和主義の内容
 「積極的平和主義」とは何か。具体的に申し上げましょう。
 例えば、アフリカ。日本は、アフリカの発展のため、誇るべき援助哲学、すなわち「そこに住む人たちの自立を促す形で援助する」を実践してきました。近年、アフリカは大きく経済成長を始めました。日本は、アフリカに新しい産業が増えるよう、女性や若者が能力を開花するよう、支援を強化します。成長の前提である平和の維持のために、南スーダンのPKOにも協力しています。
 例えば、中東。私はジュネーブ2会議に出席し、美しいシリアを取り戻すための協力を訴えました。中東地域の安定がなければ、テロ、エネルギーなどの形で、結果は世界に波及してきます。中東の持続的な和平実現。この目標に向け、日本は、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンと協力して、パレスチナ経済の自立化と当事者間の信頼醸成に取り組んでいます。また、パレスチナの国造りの努力に、アジア諸国の支援を動員する枠組みを昨年立ち上げました。昨年7月、私は、イスラエルとパレスチナを訪問し、これらの取組を通じて日本が果たすべき役割を深く認識したところです。
 例えば、ASEAN。日本は、ASEANの統合に向けた支援を一層強化しようとしています。ASEANが一つで豊かになれば、地域の安定が増し、経済的にも世界に大きな利益をもたらす。日本はこのようなビジョンを持っています。3年前、日本は大きな地震を経験し、自然災害の恐ろしさと、国際社会からの温かい支援のありがたみを肌身で感じました。ですから、日本は、ASEANの友人の困難を見過ごすことはできません。昨年11月に未曾有の台風がフィリピンを襲ったとき、1200人規模の日本の自衛隊と医療チームはフィリピンで、この思いを実際の行動に移しました。  そして、国連PKO。日本のPKO部隊は、これまでも、高いパフォーマンスと素晴らしい規律で、平和の維持に貢献し、国際社会の尊敬を勝ち得てきました。日本は、国連PKOに一層積極的に貢献していく方途を検討していきます。
 別の例を挙げましょう。日本は唯一の戦争被爆国です。日本は、核軍縮・不拡散のための地道な努力を続けてきました。日本は、「核兵器のない世界」に向けて、核保有国に核軍縮の取組を一層強く求めます。現在、米ロで行われている軍縮を、全ての核保有国に広げるべきです。私は、NPDI、Non-Proliferation and Disarmament Initiativeを主導しています。12の非核兵器国の外相が集まり、現実的かつ実践的な核軍縮・不拡散の取組を主導するイニシアティブです。4月には、私の出身地である広島でこの会合を主催し、2015年NPT 運用検討会議に向けた有益な提案を行う考えです。
 自由、民主主義、人権、法の支配といった価値は,世界のより多くの人々に共有されるべきものです。特に、世界のフロンティアである海洋、サイバー、宇宙というグローバル・コモンズにおいて、法の支配が広がることは、今後の国際社会の平和を左右します。
 アジア太平洋地域の戦略環境は大きく変化しています。アジア地域は世界で最も軍備費そして武器取引額の伸びが大きい地域であり、これは懸念材料です。日本は、地域の平和と安全の礎である日米同盟を一層強化していきます。
 同時に、様々な国と安全保障分野での協力を進めます。各々の国の外務・防衛大臣が一堂に会する「2+2」対話は、米国、オーストラリア、フランスと実施しました。これまで想定できなかったような相手とも「2+2」を実施する喜びを得ています。それはロシアです。昨年11月には、今日の議論にも貢献したラヴロフ外相と共に、非常に有意義な日露「2+2」対話を実施しました。
 ASEAN諸国,インド、中東諸国とも、安全保障対話を深化させていきます。中国とは様々な懸案があるが、大局的観点から関係を進めていくべきであり、安全保障分野においても対話を進めていきたいと考えています。

4.結語
 我々が直面する安全保障環境は、50年前とは大きく異なります。世界のパワーバランスが大きく変化し、サイバー、宇宙、テロといった新たな課題が生じています。
 このような中、どの国も、一国では、自らの平和と安全を維持することはできません。各国と協力し、積極的に、地域と世界の平和と安全に貢献する必要があるのです。この責任は、グローバル・パワーであれば、逃れるわけにはいかないものです。そして、日本の責任の果たし方こそ、積極的平和主義であり、今朝、ここで皆さんが、ミュンヘン安全保障会議の50周年の節目に発出したメッセージと符合するものです。
 私は、先週のジュネーブ2に引き続き、2週連続で欧州を訪問する機会に恵まれました。欧州の素晴らしい伝統は、いつも訪れる人々を圧倒します。中でも、欧州は、自由、民主主義、法の支配という理想により、世界を率いてきたという素晴らしい伝統を有しています。欧州には、これからも自らの理想を高く掲げてほしい。日本は、普遍的価値を共有する欧州と、平和で繁栄する国際社会を実現するため、協力を深化させていくことを楽しみにしています。
 ありがとうございました。


◆「セキュリティー・タイムス」紙に寄稿文(和文翻訳)

日本と欧州〜次の50年間の世界の平和を確保するために〜

 過去50年間、ミュンヘン安保会議は、ヨーロッパや世界の平和を願う者を惹き付ける磁石であった。アジア太平洋を始めとする他の地域にも手を差し伸べたミュンヘン安保会議の磁力は、次の50年にますます強くなるであろう。

 アジア太平洋は世界のパワーバランスの変化の中核であり、世界の経済成長の推進者である。このトレンドは漸進的であるが、決定的である。アジア太平洋は希望に満ちているが、不安材料がないわけではない。様々な事象が結びつきあう世界において、アジア太平洋の平和と安定及び繁栄は欧州の平和と安定と密接に関連している。

 だからこそ、日本は欧州のパートナーと一層緊密に協力していく用意がある。

 日本は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和、安定及び繁栄のためにこれまで以上に積極的に貢献していく。この新たな原則に基づき、国家安全保障会議の設置、国家安全保障戦略の策定といった新たな取組がなされている。日本は戦後一貫して平和の歩みを堅持し、自由と民主主義を尊重してきた。第二次世界大戦の終結から70周年となる2015年を前に、私は、いかに平和、民主主義、人権などが日本国民のアイデンティティの一部となってきたかを強調したい。国家安全保障戦略は、日本がこの道を続けることを明らかにしている。また、欧州との協力を重視していることを明確にしている。

 全ての主要国は、世界の平和と繁栄の確保に責任を有する。このため、日本は、同盟国たる米国との協力を深めつつ、アジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を強化していく。その中で、特にEUやNATOを含む欧州との協力は、とりわけ大きな潜在力を有している。

 日本と欧州はより安全で良い世界を築くための能力も意思も有している。我々の強みは、自由、民主主義、人権といった基本的価値に根ざしており、特に法の支配は、我々の将来の協力の道を照らすものである。

 第一に、日本と欧州は、「開かれ安定した海洋」から利益を得ており、国連海洋法条約を含む、法の支配に基づく海洋秩序の強化のために協力すべきである。特に、公海上の航行及び飛行の自由は世界の繁栄のみならず安定のために重要である。沿岸国の海洋秩序維持のための能力構築支援は有望な協力分野であり、日本と欧州はソマリア沖及びアデン湾で海賊対処のために協力している。また、南シナ海の関係国に対し、実効的で法的拘束力のある行動規範の策定を促すことができる。EUは海洋安全保障戦略を6月に策定予定であり、日本は、欧州と協力していくことを楽しみにしている。

 第二に、日本と欧州は、サイバースペースにおける法の支配の確立に協力すべきである。驚くべきことにこのグローバル・コモンズをいかなるルールが支配するのかについて合意はない。日本は、国連憲章を含む既存の国際法が適用されるとの立場である。サイバースペースの問題は、地理的距離のいかんによらず、欧州とアジアの安全保障が密接に関係していることを示す分野である。

 第三に、日本と欧州は、宇宙への自由なアクセスと持続可能な利用を確保するために協力すべきである。ASAT実験の防止や衛星の衝突の回避は各国にとっての利益であり、日本と欧州は、宇宙活動に関する行動規範の早期策定に向け協力すべきである。

 我々の強みは、また、冷徹なリアリズムに裏打ちされた平和へのコミットメントに在る。軍縮不拡散は、この我々の強みを必要とする。唯一の戦争被爆国の、そして広島出身の外務大臣として、ここでは核兵器のない世界に向けた日本と欧州の協力に焦点を当てたい。

 世界にはいまだ17,000以上の核弾頭が存在する。イランや北朝鮮の核問題、さらには核テロリズムの問題は、世界の深刻な懸念事項である。核兵器のない世界を追求するに当たり、我々は、核兵器が使用された場合の人道的影響とますます多様化する核リスクの双方を認識する必要がある。このような認識に立ち、私は、核不拡散のための「3つの阻止」、すなわち、新たな核兵器国出現の阻止、核開発に寄与し得る物資、技術の拡散の阻止、及び核テロの阻止を提案したい。さらに、核軍縮のための「3つの低減」として、すなわち、核兵器の数の削減、核兵器の役割の低減、核兵器を保有する動機の低減を提唱したい。このイニシアティブを推進する上で、欧州の支持と協力を得たい。

 不拡散は喫緊の課題である。日本と欧州は2015年のNPT運用検討会議を成功させ、包括的核実験禁止条約の早期発効に向けて貢献すべきである。私は、独、オランダ、ポーランド、トルコを始めとする関係国の外務大臣とNPDIの取組を通じ協力していることを喜ばしく思う。次回のNPDI会合は、4月に広島で行われる。核兵器のない世界という崇高な目標の実現に向けて、被爆地から力強いメッセージを発したい。核セキュリティについては、日本と欧州は、ハーグで開催される核セキュリティサミットが具体的成果を上げられるよう協力すべきである。また、輸出管理においても、日本と欧州は、特に懸念国に対する武器及び汎用品の責任ある輸出管理に対するコミットメントを通じ、範を垂れるべきである。

 これらは、日本と欧州が共に世界のために協力できるいくつかの道である。我々は、共通の価値と平和及びリアリズムへのコミットメントに立脚する指導力を発揮することで、変化をもたらすことができる。私は、欧州の友人と共に行動に移すことを楽しみにしている。


→「セキュリティー・タイムス」紙はこちらからご覧いただけます。(PDFファイル)


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